第2回SBT大変お疲れさまでした。
前回に続き、2回連続で出題させていただきました、くりりんです。
皆様から頂いたコメント、大変興味深く読ませていただきました。
蒸留所もさることながら、年代、地域に含めて広域で迷われたようで、
多様に存在するこのボトルの要素の中で、どのフレーバーを重点的に捉えたかで
予想蒸留所だけでなく、テイスティングコメントに至るまで影響があったように思います。
前回のボトルはグレンモーレンジアスター
バーボン樽の印象がしっかり出た、モルトの教材として最適な一本として出題しました。
そして今回ですが、今回ももちろんテーマを込めて出題させていただきました。
今回のテーマは”本当のスコッチ”です。
フレーバーに違和感を感じられた方も何名かおりましたが、
御察しの通り、正解はモルトではありません。ブレンデットです。
というわけで、正解はこちら
ジョニーウォーカー レッドラベル
(ジョニ赤)
43% 760ml
流通:1960年代
蒸留:1940~1950年代主体
特級表記、コルクキャップ、JAPANTAX有
三菱商事株式会社 取扱
流通価格:店頭販売価格不明
オークション価格は7000~10000円程度
SBTスコア:85点
SBT価格:10458円
キーモルト:カーデュー、カリラ、
ロイヤルロッホナガ、モートラック、
タリスカー、旧クライヌリッシュ等
<テイスティング>
香り:少しひねたカラメル、黒砂糖飴、上質なシェリーの甘さが感じられ、その後すぐにピートスモークが現れる。
時間と共に麦芽質な甘さ、穀物、かすかに磯の香り。甘くどこか古びた香りはウェアハウスにいるようでもある。
また、アルコールが立っていてコルク臭もなく、ボトリングから約50年を経てなお状態は良い。
味:粘性があるがスムーズな口当たり、上質なシェリー感からすぐにはかない麦芽系の甘さ、穀物質なフレーバーを感じ、
そこから後半にかけて盛り上がるようにオレンジチョコレート、煮出しの紅茶、加えてピートがしっかりと利いている。
全体のバランスは非常に良く、加水だが厚みがあり、度数以上に力強く様々な個性が訴えかけてくる。
フィニッシュはピートのビターな余韻がしみ込むように口の中を引き締め、徐々にフレーバーが引いていくすっきりした余韻。
コメント:多様なフレーバー、熟成された原酒の旨味の濃さ、それらに変化を与える甘さと苦み、バランス・・・、
これで一般普及品のジョニ赤というのですから、現行品のラインナップを考えられば信じられないクオリティ。
モルトの質、グレーンの質、そして樽の質・・・もう別格です。
【SBT雑感】
本当は、ほぼ全員がブレンデットじゃんかよ(笑)と言って、やっぱりくりりんかよw
と突っ込んでくれる、サービス問題のつもりでもありましたが、
思いのほかモルトに流れて意外というか、これはこれで計画通りと申しますか・・・。
>皆様のコメントはこちら
今回はあくまでどう感じたかを重視していますので、正解はオマケみたいなものですが、
オールドブレンデットと回答した、あだもさん、まつきさん、STさんを正解といたします。
特にまつきさんは第3候補ですがジョニーウォーカーも指定頂いてますね。
相変わらず恐ろしい舌と嗅覚でございます。
最後まで「実はモルトなんじゃ」という気持ちがあったようで、コメントにもにじみ出ていますが、
残念ながら予想通りのブレンデット、私はそこまで腹黒くありません(笑)。
STさんはバランタインかで迷われたようですが、オールドのバランタインは全然キャラクターが違います。
というかBURNSで私のボトル飲んでるんだから・・・ここは当てておかないと。というわけで減点です。
タケモトさんは瓶内変化やグレーンの抜けたブレンデットとテイスティングコメントでもあり、
まさにその表現で正解なんですが・・・最終指定がずれておりました。
シングルモルト見習いさんは「シェリーが別格」「洗練されている」というコメントで、
上記の通り、このボトルに使われている原酒は1940年代から1950年代蒸留で
極めて上質なシェリー樽が豊富に使われていると推測されます。
射命丸さんも「オーソドックスなアイラではない」としてタリスカーを予想しています。
皆様こちらが意図するコメントをしっかり頂いており、合わせ技で正解としたいくらいです。
一方で、近年詰めのシェリーとか予想した数名は猛省してください、モニタ前で正座です(笑)
特に甘党眼鏡店長(ガースー)、昨年末に俺からボトルまでもらっておいて・・・兄さん悲しいです。
このボトルは、レギュラーテイスターではまつきさんとあだもさん以外は飲んでいるはずなので、
正直なところ、おさえて欲しかったなーという気持ちもあります。
【出題の意図】
今回の出題背景は、上述のとおり”本当のスコッチ”をテーマにしています。
シングルモルトブームの昨今ではありますが、未だウィスキーの顔はブレンデットウィスキー、
特にスコッチであり、世界中で多くのスコッチが消費されています。
その割合は、シングルモルトとの対比においては、90%以上がスコッチということだったと記憶しています。
ブレンデットウィスキーからウィスキーの道に入った、まず最初に飲んだのはスコッチだった、
今はバリバリのモルトラバーでも、こういう方は少なくないのではないでしょうか。
某著書の表現を借りるなら、シングルモルトはソロ、ブレンデットはオーケストラとなります。
スコットランド全土で作られる個性豊かな原酒が、卓越した技術を持つブレンダーの手によって混ざり合い、
渾然一体となって織りなす香りのハーモニー。
ジャパニーズのように単一蒸留所による原酒作り分けではない、それぞれの地域の個性、空気が混ざり合った、
スコットランドの名を冠する(スコッチを名乗る)にふさわしい壮大なスケール。
理想的には・・・です。
しかし、現在一般に広く流通するスコッチを飲んで、これらを連想することが出来るでしょうか。
一部例外もありますが、私の答えはNOです。
なんの個性も感じられないフレーバー、べったりとしたアルコールの味わい、カラメル香、
特に普及価格帯のスコッチには若い原酒のギスギスとしたえぐみ、
キーモルトなんてのは名ばかり、どこにもその姿を感じることはできません。
その背景には、近年の大量生産によるブレンデットウィスキーの製造方法の変化、
原酒の製造面では、特にグレーンウィスキーの扱い、位置づけが変わってきたところによるものが大きいと感じています。
いつからかという具体的な資料はありませんが、グレーンウィスキーの製造は、
超効率化の一途で、とにかく純粋で大量のアルコールを取り出す方向に終始しています。
取り出されたグレーンとは名ばかりのアルコールは、加水により60%台に度数を落とされ、
さらに何度も使い古された樽に入れられ、酒質として限りなく薄く、樽の影響も限りなく薄いままブレンドに回ります。
また、これはあくまで味からの推定でしかありませんが、
近年のブレンドは、原酒を大量に混ぜ合わせてグレーンで薄めることで、
無個性ながら安定した品質の製品を世界規模で展開することが重点として置かれているように思います。
しかし本来、グレーンウィスキーはモルト原酒の個性と個性を繋ぎ合わせ、
潤滑油のような役割を担う、野球でいうなら2番打者、チームのつなぎ役であるはずであり、
”ブレンド”とは、単純な足し算ではなく、品質の平準化だけでもなく、
異なる個性を混ぜ合わせることで1+1=3を可能とし、より高みへと昇華させることに真髄があるのではないかと思います。
今回のサンプルによる各テイスターのコメントを改めて見直してみると、
それは理想論ではなく、たしかに存在したことは明白です。
濃厚かつ複雑であり、スペイサイドのような華やかさ、
ミディアムで感じるハイランドモルトらしい麦芽のはかなさ、
アイラ系ピートの力強さ、微かなヨード香、良質なシェリー。
多様な要素を持ちつつも、それらが破たんすることなくまとまり、
バランスが良くすっきりとしていて、どこか飲みやすさがある。
オールドボトルゆえに若干のマイナスフレーバーは発生していますが、それを差し引いても圧倒的存在感。
これを本当のスコッチと言わずして何をスコッチというのでしょうか、
個人的には、このボトルがブレンデットスコッチの完成系のひとつとして考えています。
長くなりましたが、今回のSBTでは、
この”本当のスコッチ”をブラインドで皆様がどう評価するかを確かめたく、出題させていただいた次第です。
1960年代流通以前のボトルは、洋酒輸入自由化の前にあたるため、国内流通量が1970年代に比べて少なく、
今後ますます在庫が減っていくボトルでもあります。
是非、様々なボトルを飲んできた飲み手の素の評価が見たいと思っておりましたが、
思いのほか多様な回答になり若干驚きました。楽しんで頂けましたら幸いですし、
ブレンデットの真の力、本来の可能性を感じていただければ出題者冥利につきるところです。
なお、今回の出題では、オールドブレンデットを楽しむなら時期が悪かったかなと思う点はあります。
甘みが強く、オイリーな酒質は、夏場の気温が高い時期はべったりとした印象が強くなり、やや不快でもあります。
真に美味しく飲むならば、涼しくなる秋口から冬場、初春がベストシーズンです。
今回の出題からオールドブレンデットに魅力を感じた、興味を持った方が居れば、
是非ベストシーズンに、BAR等で楽しんでみてください。
もちろん私も”持ち込み会”等に提供させていただきます!