(昨年末、別件用に書いた文章ですが当サイトにおいても公開いたします。)
2011の今年、日本におけるウイスキー流通トレンドは「稀少性」「果実的フレーバー」「ドイツ系ボトラー」という3本柱ではなかったでしょうか。
果実的ではないウイスキーは、ほとんど注目されず、また売れない。
その点幸いウイスキーリンクでリリースしたボトルは、チャリティーであった部分を差し引いても、内容は最近のそれではなかったですし、ありがたいことに多くの方に手にとっていただくことが出来ました。改めて感謝申し上げます。
そこで「果実的フレーバー」に関しては従来から書かせていただいている通り、エステル豊富で粘性があって、余韻で脱水(喉が渇く)を覚えるという共通点をもっていることが多く、2010年半ばぐらい、1993ボウモアのTWA3rd以降、より顕著になった気がしています。
【参考】https://www.whiskylink.jp/?p=10606
これはもうTWAだけの特徴ではありません、JWWWやMoS、もちろんDT、外れているのがダグラスレインぐらいなもので、ドイツ系ボトラーのほとんどに共通したキャラクターとなっています。
オフィシャルでも、ビル・ラムズデン氏を筆頭に、決して悪い意味ではなく「既存の樽に対して、つくりこみを行う」ことが暗黙の前提となっている蒸溜所が注目されています。
加工のなにが一番困ってしまうかというと、しばらく飲んでいると飽きちゃうんですよね。毎回似た感じで1本通しても変化しないですし、同じボトラー同士また似てると。
G&M、ケイデンにもボトリングで必要な水分が共通していてというのがありましたけど、それともまた違う感じです。
そのせいか今年からは、従来型のバーボンカスクとかオークカスクという呼称ではなく、ナチュラルカスクという言われ方が目立ち始めました。
MMA2011ナチュラルカスク・アワードを獲得した(ウルトラプレミアム)、メゾン向けグラント1952/2011がその最たる例でしょう。
シングルカスクの59年熟成で、48本。
1樽に48本しか取れない量で、今回すべてを払い出したなどというのは誰も思っていません。そんなに大量な空気と共存させていたら49.2%の度数を保っている訳がありません。
でもそれを取り立てて、誰もつっこんだりもしません。
ナチュラルであるというからには、ナチュラルでないものも有るわけなんでしょうが、別にそれが悪いというよりは、もうちょっと技術の選択肢というか、個性が出てくるといいのでしょう。まだまだ過渡期と思いたいです。
ナチュラルカスクに保存をして、価値が上がったところで別な仕上げ用の樽に移し替えるということなんだと思います。
蒸溜所も、蒸溜年も、熟成年数が違っても、どれも似た感じというのでは飽きられてしまいます。
それに稀少なシェリー樽を回転させる意味でも、ナチュラル待ちで、リリース前に詰め替えるというのが経済的合理性があるというものです。
それでも樽が足りない、低コストで美味しい中身を作り出したい、というボトラーが試行錯誤している状況なのだと思いたいですね。
また使い回しの「樽」は限界で、以前のように豊かな香味をウイスキーに与えることは出来なくなったと考えられています。むしろボトラーから出てくるシングルカスク10年程度の熟成品など、市場では地雷にしか思われてません。そんなに早く出す理由(樽の異変)が心配というわけです。
さらに新しく作ろうにも環境保護も、木材の保護も、ワイン人気もウイスキーにとっては難題だというのでしょう。正直あんなに量がかさばるワインが安価にリリースされ続けていて、ウイスキーが専用の樽を用意できないというのも変な話ではあります。
樽の問題はたしかに難題。
ただ一点気になるのは、稀少性や、実態とはかけ離れたテイスティングノートで、購買を煽るケースが目立つことです。
アメ横で、年中「今日で閉店します」という店の人が大声で煽っていますが、誰もそんなこと信じていません。当然商品の品質も信用されていません。
やっぱりウイスキーは、飲むものですし決して安い商品ではないですから、信じられなくても構わないから、ただ売り切ればいいと煽りに徹するのは、ぼちぼちやめて欲しいなと。
煽られる側(購入者)にしても、競争して獲得したボトルを嬉しいと思えるのにも限りがあります。そこまでして買ったのに、中身はこんなもんなのかと。
最初こそ自分が他の人が買えなかったものを持っている、当初は優越感で多少なりとも満たされるのかもしれません。
でも結局、昔からの「見栄飲み」と一緒で、(別にだからといって売る側を除いては)特段買っただけである本人が凄いと言ってくれるわけでも、認められるわけでもなんでもありません。
さらにボトルを開けずにコレクトしているばかりならば、他のウイスキー好きから「のちのち放出するだろう。しばし保管庫として頑張ってくれ」と思われているに過ぎないかもしれません。
売る側も、瞬殺されているうちは現状以上の努力はしないでしょう。幅広いラインナップよりピンポイントを祭りのように煽ったほうが楽です。
来年は、本当に競って買うほどの中身なのかをよく見極めて行きたいですね。