>個人的にはシーズニング樽をシェリー樽と呼ぶべきか、かつてのようにシェリーウッドと呼ぶべきかであれば後者に賛成しますが、通例上シェリーシーズニング樽と記載しています。念の為。またシーズニング樽においてスパニッシュオークと名乗る場合、実際はアメリカンオークであるのに、スペインから来た樽なので、スパニッシュオークと呼んでいるという話にはかなり懐疑的です。フィノ・マンサニージャのシーズニング工程で、非硫黄殺菌を受け、かつ短期間のシーズニングしか受けていなければ、色も香味もライトであるものが存在して普通です。繰り返しますがシーズニングはなるべく早期に終了してほしいと思っています。
◆ スパニッシュオーク材(Quercus robur)を使用したシェリーシーズニング樽の殺菌工程とウイスキーへの香味影響
― マンサニージャ・フィノ・オロロソ・PX・アモンティリャード ―
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◆ マンサニージャ × スパニッシュオーク
•殺菌処理:
硫黄燻蒸は行わず、蒸気洗浄+物理的乾燥(天日または乾燥室)で衛生管理。
香味の繊細さとフロールの名残を活かすため、極めて低侵襲な処理が選ばれる。
•ウイスキーへの香味影響:
・スパニッシュオーク由来の渋み、タンニンが、マンサニージャの塩気や柑橘感と結びつく
・張り詰めた酸味、白胡椒、潮風、青リンゴのような鋭く乾いた香味
・余韻はドライで緊張感のある長さを持ち、全体として精悍な印象に
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◆ フィノ × スパニッシュオーク
•殺菌処理:
硫黄燻蒸は原則行わず、マンサニージャと同様に蒸気洗浄・乾燥で管理。
一部の工業的シーズニングではSO₂ガスによる軽度殺菌を行う例もあるが稀。
•ウイスキーへの香味影響:
・スパニッシュオークのタンニンと、フィノのフロール由来の苦味・酵母感が融合
・グリーンアーモンド、パンの皮、控えめな白い果実香
・全体に軽やかだが渋みが支配的になりやすいため、短期熟成・フィニッシュ向き
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◆ オロロソ × スパニッシュオーク
•殺菌処理:
生物膜が存在しないため、燻硫処理(SO₂キャンドル)による殺菌が一般的。
特にスパニッシュオークは保存中にカビや腐敗を起こしやすいため、しっかり処理されることが多い。
•ウイスキーへの香味影響:
・スパニッシュオークの強いタンニンとオロロソの酸化的香味が重なり、非常に重厚な風味に
・ドライレーズン、胡桃、紅茶、スパイス、黒糖などの深く落ち着いた香味
・熟成向きで、長い余韻・分厚いボディ・古酒的な熟成感を作り出す
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◆ PX(ペドロ・ヒメネス) × スパニッシュオーク
•殺菌処理:
極甘で高粘性・高アルコールのため、殺菌処理は不要またはごく軽度の乾燥のみ。
硫黄を使うと甘香の中に異臭が混ざるため使用されない。
•ウイスキーへの香味影響:
・スパニッシュオークの渋みとPXの甘さがぶつかるため、極端に濃密で重厚な仕上がりになる
・干し柿、プルーン、黒蜜、シナモン、ナッツチョコレートのような複層的な甘さ
・余韻は極めて長く、デザートウイスキーの極致的な存在感を放つ
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◆ アモンティリャード/パロ・コルタド × スパニッシュオーク
•殺菌処理:
生物熟成と酸化熟成を併せ持つため、軽度の燻硫処理が行われる場合もあれば、自然乾燥のみで対応することもある。
どちらのケースも、香味残存を最優先にして処理の強さは抑えられる。
•ウイスキーへの香味影響:
・スパニッシュオークの深みと、アモンティリャードの複雑香が融合すると非常に奥行きある香味構造に
・カラメルナッツ、紅茶、焼いたパン皮、ドライオレンジピールなどのほろ苦く芳ばしい香味
・余韻は落ち着いたビター感とウッディネスが長く続く
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◆ 総括:スパニッシュオーク×各シェリー酒による香味設計の視点
•マンサニージャ/フィノ:
→ 軽快・辛口に振れる。スパニッシュオークの渋みと鋭く共鳴。緊張感のある仕上がり。
•オロロソ/PX:
→ 濃密・甘重。スパニッシュオークの重さに負けない酸化熟成香が特徴。古酒らしさ全開。
•アモンティリャード系:
→ 中庸・複雑系。ウイスキーに落ち着きと深みを与え、通好みの仕上がりに。
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